指宿のグルメシーンを語る上で外せないのが、指宿砂むし温泉の源泉熱を利用して作られる温泉卵を使った「温たまらん丼」だ。地元の方言である「たまらん(たまらない)」と「温泉卵」を掛け合わせたこの郷土料理は、指宿市観光協会の呼びかけにより誕生し、いまや市内十数店舗で個性豊かなアレンジが競い合われている。
ある割烹では、特製のタレで甘辛く煮込んだ極上の牛肉の上に、絶妙な半熟加減の温泉卵が鎮座する。箸を入れれば、濃厚な黄身がとろりとあふれ出し、肉の脂とタレが絡み合ってご飯の一粒一粒を包み込む。また別の食事処では、地元産の鰻や旬の海鮮を贅沢に盛り込み、温泉卵のまろやかさで全体を調和させる創作スタイルを打ち出している。
単なるご当地グルメの枠を超え、各店舗の料理人が自らの技とプライドを丼という小さな宇宙に注ぎ込む。熱源に地球の息吹をそのまま活かすという発想は、自然と共生してきたこの街ならではの食の知恵といえる。