荻野貴司の走塁には、独自の美学があった。ただ足が速いだけではない。投手の牽制球に対する重心の置き方、捕手のわずかな視線の揺らぎを見逃さない判断力、そしてトップスピードに乗るまでの驚異的な加速力。ZOZOマリン特有の気まぐれな海風をも味方につけ、相手バッテリーに極限のプレッシャーを与え続けた。
30代半ばを過ぎてから獲得した盗塁王のタイトルは、まさに努力と研ぎ澄まされた技術の結晶だった。年齢とともに衰える筋力を、洗練されたスタート技術と無駄のない走路取りでカバーする。若い選手たちが束になって挑んでも届かない領域に、荻野は立ち続けていた。