名建築の存続において最大の山場となったのが、2011年からの再開発事業です。新旧ビルの配置計画と地下インフラの整備に伴い、当初の位置のまま建物を残すことは物理的に不可能とされていました。そこで採用されたのが、建物を解体せずにそのまま持ち上げて水平移動させる「曳家(ひきいえ)工法」です。
約3,000トンに達する文化財建造物を、ジャッキアップして仮設レールの上に乗せ、約44メートル北側へ移動。さらに地下免震層を構築した上で元の高さへと戻す大工事が敢行されました。外観の保全だけでなく、建設当時の図面や古写真を綿密に照合し、昭和期のホテル改装で改変されていた内装・照明器具・窓枠・壁紙を、1930年竣工当時のオリジナル状態へ極限まで復原したのです。
設計を手掛けた宮内省内匠寮(たくみりょう)は、迎賓館赤坂離宮や旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)などを手掛けた最高峰の建築組織です。ステンドグラスに差し込む淡い自然光、細やかなレリーフが施された木製マントルピース、リブヴォールト天井など、現地で見られる細部装飾はいずれも工芸品レベルの精度を誇ります。