よしながふみ氏による原作コミック『西洋骨董洋菓子店』(新書館)は、緻密な人間描写とジェンダー観、ビターな大人のユーモアで熱狂的なファンを持つ名作です。脚本家の岡田惠和氏は、原作のスピリットを尊重しながらも、当時の月9枠向けに見事なローカライズを行いました。
最大の違いは、物語の主軸とキャラクター設定の調整です。原作は「魔性のゲイ」であるパティシエ・小野とオーナー・橘の人間関係を主軸にした大人の群像劇ですが、ドラマ版では滝沢秀明氏演じる神田エイジを実質的な主人公(語り手)に据え、ボクサーとしての挫折とケーキ作りを通じた成長譚としての側面を前面に出しました。
また、地上波プライムタイムの放送基準に合わせ、小野の同性愛描写は「極度の女性恐怖症」としてのコメディ要素やプラトニックなニュアンスへとマイルドに再構成されました。さらに、エイジの生い立ちやボクシングジムの人々との絆など、ドラマオリジナルのハートフルな要素が肉付けされています。
原作の持つダークでシニカルな空気感を保ちつつ、家族で楽しめる上質なポップスへと昇華させた岡田脚本の妙技は、今振り返っても極めて高度なメディアミックスの成功例といえます。