『知りすぎたのね』を語る上で欠かせないのが、作詞家・なかにし礼の存在です。昭和歌謡史に燦然と輝く名曲の数々を手掛けた彼ですが、本作においては作詞と作曲の双方を単独で担当しています。専業作詞家として名を馳せていたなかにし礼がメロディまで自ら構築した作品は極めて珍しく、その制作背景には特別な情熱が注がれていました。
本作の創作における元ネタ(着想源)となったのは、彼が若き日に身を置いていた東京・銀座や赤坂のナイトクラブ、そしてそこで交錯する男女の生々しい人間模様でした。華やかな夜の社交場の片隅で交わされる視線、嘘と真実の境界線、知りすぎてしまったがゆえに壊れていく関係性など、現場の空気感を肌で知るなかにし礼だからこそ描けたリアリズムが、この哀愁漂う旋律と詞情に結実しています。
1968年の発売日以降、レコードは瞬く間に全国の有線放送や盛り場を席巻。なかにし礼の卓越したストーリーテリングと直感的なメロディセンスが融合した本作は、ムード歌謡の歴史を塗り替える記念碑的な一曲となりました。