是枝裕和監督の真骨頂とも言える人間描写の深みは、本作においても遺憾なく発揮されている。タイトルの「別腹」という言葉には、単なる食欲の比喩にとどまらない、登場人物たちが心の奥底に隠し持つ「もう一つの欲望」や「語られざる秘密」という二重三重のメッセージが込められている。
劇中に繰り返し登場する静謐な茶室のシーンや、壁に掛けられた時計が指し示す「11時5分」の刻限には、ストーリー展開の鍵を握る決定的な伏線が隠されている。先行して断片的に流出した映像の端々に散りばめられた小さな違和感を紐解いていくと、ラスト15分でそれまでの前提がすべて覆されるような、緻密で衝撃的な構造が浮かび上がってくるのだ。