1914年の夏、フランスの名作曲家モーリス・ラヴェルは、故郷であるバスク地方のサン=ジャン=ド=リュズに滞在していた。かねてより構想を温めていた新たな作品の筆を進めていた彼だが、世界は第一次世界大戦という未曾有の混乱へと突入しようとしていた。
軍への志願入隊を強く望んでいたラヴェルは、出征前にこの作品を完成させなければならないという猛烈な焦燥感に駆られる。パリ国立高等音楽院で磨き上げた緻密な対位法と完璧主義的なセンスを総動員し、本来なら数ヶ月を要する推敲をわずか数週間で終わらせた。戦火の足音が間近に迫る極限状態のなかで、この奇跡的なスコアは完成をみたのだった。