彼の歩みを語る上で、1989年から2010年まで駆け抜けたスリーピースバンド「ゆらゆら帝国」の存在を外すことはできない。轟音のファズギターと狂気的なリフで日本のアンダーグラウンドを席巻した彼らは、2000年代後半に入ると極限まで音数を削ぎ落とすミニマリズムへと舵を切った。
その到達点となったラストアルバム『空洞です』は、日本のロック史に永遠に刻まれる金字塔だ。不穏でありながら甘美、冷徹でありながら人肌の温もりを持つあの奇跡的なアンサンブル。長年ベースを弾き続けた盟友・亀川千代が奏でる低音のうねりと、坂本の削ぎ落とされたギターワークは、日本のサイケデリック・ロックの概念を根本から書き換えてしまった。
バンド解散後、ソロへと移行した坂本は、轟音を完全に手放した。しかし、そこに宿る「違和感の美学」は消えるどころか、より洗練された形で深化を遂げている。