美術品の梱包において、一般的な段ボール箱にプチプチ(気泡緩衝材)を巻くだけのやり方は極めて危険です。作品表面のニスや油彩層、アクリル樹脂は化学変化を起こしやすく、一般的なビニール素材が直接触れたまま密閉されると、湿気や可塑剤の影響で作品に癒着してしまうトラブルが後を絶ちません。
プロが実践するアート作品の特殊梱包方法では、まず作品の表面を保護するために酸を含まない「中性紙(アーカイバルペーパー)」や「高級薄葉紙」で優しく包み込みます。その上で、吸湿性・通気性に優れた専用マットやパラフィン紙を用い、外部からの衝撃を分散するクッション材で幾重にもガードします。
さらに高額作品や長距離輸送で必須となるのが絵画クレート梱包技術です。クレートとは、作品の寸法に合わせてミリ単位で設計される強化木箱を指します。内部には衝撃吸収用の高密度フォーム材(ポリフォーム等)が配置され、木箱内部で作品が完全に浮いた状態(フローティング構造)を維持します。気密性の高い完全密閉クレートは、外部の急激な温湿度変化を遮断し、結露やカビの発生を物理的にシャットアウトする強固なシェルターの役割を果たします。
一方で、素材が多様化している現代アート輸送の注意点も見逃せません。ネオン管、剥製、生分解性プラスチック、さらには砂や液体を含むミクストメディアなど、従来の枠組みに収まらない作品が増えています。これらは「どこを持って支えるべきか」「どの角度の傾きに耐えられるか」を作家や修復士(コンサベーター)と綿密に協議し、専用の固定治具をオーダーメイドで製作する高度な技術が求められます。