安美錦といえば、何と言っても「技能派」としての異名だ。横綱や大関をことごとく破る姿は「金星ハンター」と称され、その出し投げや出し投げからの変化、土俵際での粘りは芸術の域に達していた。しかし、その華々しい戦績の裏には、両膝の大怪我という凄惨な苦難があった。
前十字靭帯断裂という、アスリートにとって絶望的な負傷を抱えながらも、安美錦は土俵に立ち続けた。その陰には、兄・安壮富士の献身的なサポートがあったという。現役時代、宿舎や部屋の移動中にも兄は弟の体調に細かく気を配り、心の支えとなった。控室でのちょっとした冗談や何気ない言葉が、緊張に押し潰されそうな安美錦の心を何度救ったか知れない。
「兄貴がいたから、どんなに痛くても逃げずに済んだ」。後年、安美錦がそう振り返るように、名勝負の裏には言葉にしない兄弟の暗黙の了解が存在していた。土俵上の鋭い眼光とは裏腹に、支度部屋で見せる兄弟同士の柔らかな笑顔のギャップも、ファンを惹きつけてやまない魅力であった。