制度化されない空白地帯がもたらす悲劇の象徴となったのが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者に対する医師らによる嘱託殺人事件だ。大久保愉一元医師らがSNSを通じて依頼を受け、患者の自宅を訪れて薬物を投与した事件は、社会に凄まじい衝撃を与えた。裁判では医療行為としての正当性は完全に否定され、重大な刑事罰が下されている。
この事件は、単なる医師の暴走という一言では片付けられない闇を浮き彫りにした。十分な支援を受けられずに孤立し、生きる気力を削がれた患者の絶望に、公的なセーフティネットではなく、アンダーグラウンドな手段が応じてしまったという事実である。適切な緩和ケアへのアクセスや社会保障の拡充が追いついていない現実を放置したままでは、第二、第三の悲劇が生まれかねない。