早朝の磯子区。吉村家発祥の地を受け継ぐ「杉田家」の厨房では、夜明け前から巨大な寸胴が激しい蒸気を吹き上げている。豚骨醤油ラーメンの完成度は、スープの出来栄えだけで決まるわけではない。酒井の麺をどう茹で、どう揚げるかという職人の技術と完全に結びついている。
現在主流のテボ(深型の振りザル)ではなく、伝統的な平ザルを用いて麺を躍らせる。職人は湯の対流を見極め、わずか数秒の差で茹で上がりを判断する。酒井製麺の特注麺は、芯まで熱を通し切った瞬間に、外側がもっちりとしながらも中心部にシルクのような粘り強いコシが宿る。
「固め」コールが定着した現代だが、熟練の職人ほど「普通」や「柔らかめ」でこそ酒井の真価が出ると口を揃える。スープの熱と脂を抱き込み、麺自体が旨味を吸って膨らむ刹那。その完璧なタイミングで丼に滑り込ませる技術こそが、直系の厨房で守り継がれる職人芸だ。