津波の第1波が引き波へと変わる直前、現場は瓦礫と泥濘が入り混じり、一歩進むことすら困難な地獄絵図と化していた。母親の手からすり抜けてしまった赤ちゃんは、奇跡的に浮力のあるベビーシートに乗ったまま、濁流に流されたとみられていた。当時の気温はわずか5度。低体温症の危険が刻一刻と迫る中、地元の消防団とボランティアの若者たちが、腰まで泥水に浸かりながら捜索を開始した。時間が経てば経つほど、生存率は絶望的な数値へと降下していく。
「あそこだ!」と叫んだのは、近所に住むベテラン漁師の男性だった。約200メートル流された下流の、倒壊した民家の屋根の隙間に、奇跡的に引っかかっている青いシートが見えたのだ。次の波が押し寄せるかもしれない恐怖の中、男性たちはためらうことなく泥水に飛び込み、赤ちゃんを抱き上げた。発見時、赤ちゃんはかすかに泣き声を上げており、その声が周囲の捜索隊にどれほどの希望を与えたかは計り知れない。