私たちが日常で目にする草花の中には、見た目の鮮やかさとは裏腹に、不穏な影を背負った品種が数多く存在します。その代表格といえるのが、黒百合(クロユリ)、彼岸花(ヒガンバナ)、そしてマリーゴールドです。
高山植物として知られる黒百合には「恋」という無垢な花言葉がある一方で、「呪い」「復讐」という恐ろしい裏の顔が定着しています。この由来となったのが、戦国武将・佐々成政にまつわる「黒百合伝説」です。成政は密通を疑った愛妾・早百合を惨殺し、彼女の一族をも処刑しました。早百合は息絶える間際、「立山に黒百合が咲いたら、佐々家は滅亡する」と言い残したと伝えられています。のちに成政の正室が豊臣秀吉の正室・ねねに黒百合を献上した際、淀殿がさらに見事な黒百合を取り寄せて恥をかかせ、佐々家の失脚を招いたという史話が、呪いの象徴としての地位を決定づけました。
秋の畦道を真紅に染める彼岸花に対しては、多くの人が本能的な不気味さを覚えます。その花言葉に「あきらめ」「悲しい思い出」「死」が結びつけられる理由は、植物としての生態と歴史的役割にあります。彼岸花は全草に強いアルカロイド系毒素(リコリン)を含んでおり、かつて土葬が主流だった時代に遺体をモグラや野犬から守る目的で墓地に植えられました。飢餓の非常食として毒抜きして食された過酷な記憶や、炎のように燃え上がる真っ赤な花弁が「地獄花」「死人花」という異名を呼び起こし、死生観と結びついた不穏なイメージを確立させたのです。
家庭菜園や花壇の定番であるマリーゴールドも例外ではありません。鮮やかな黄金色の花弁弁の奥には、「絶望」「嫉妬」「悲嘆」という重苦しい感情が潜んでいます。これは太陽神アポロンを愛しながらも振り向かれず、狂おしい嫉妬の末に衰弱死した少女の亡骸から生まれたというギリシャ神話が起源です。ヨーロッパでは古くから黄色が「裏切り」や「異端」のシンボルカラーとみなされてきた文化的背景も、この暗い意味合いを後押ししています。