長野県・八ヶ岳の麓、舗装も途切れるような林道の先にある店舗を訪ねると、静寂そのものが客を出迎える。聞こえるのは風に揺れる葉の音と、遠くの沢音だけだ。卓上に置かれた「携帯電話の電源をお切りください」という控えめなカードが、ここでのルールを静かに告げている。
「最初は不安そうにスマホを握りしめているお客様も、スープが運ばれてくる頃には画面から目を離します」とシェフは語る。常時接続が当たり前になった2026年の社会において、物理的に「遮断された空間」で食事をとること自体が、最も手に入りにくいラグジュアリーとなっているのだ。