歴史の資料集や教科書に必ずといっていいほど掲載されている足利義政の肖像画。土佐光信の筆と伝わるこの有名なビジュアルには、他の武家肖像画とは一線を画す足利義政の肖像画ならではの特徴がいくつも刻まれています。
画面中央に端座する義政は、漆黒の束帯(そくたい)を身にまとい、頭部には高くそびえる立烏帽子(たてえぼし)を戴いています。同時代の武将たちが誇示しがちだった威圧的な甲冑姿や鋭い武威の誇示とは対照的に、義政の表情は極めて沈着で、どこか哲学的な静寂を漂わせています。細く切れ長の目、スッと通った鼻筋、そして口元にたくわえられた上品な口髭。この控えめながら研ぎ澄まされた顔立ちは、彼が政治闘争の泥沼よりも、茶道や連歌、作庭といった芸術世界に傾倒していった心理状態を雄弁に物語っています。
美術史の観点からも、この肖像画は線の繊細さと色彩の抑制によって、後の東山文化が重んじた「わび・さび」の美意識を先取りした構成として高く評価されています。権力者としての威厳よりも、一人の求道者・数寄者としての内省的な佇まいを前面に押し出した構図こそが、今なお人々の視線を惹きつけてやまない最大の要因です。