「ベビーシェマ(Kindchenschema)」という概念を世界で初めて提唱したのは、ノーベル生理学・医学賞を受賞したオーストリアの動物行動学者コンラート・ローレンツだ。彼は1940年代、人間だけでなくアヒルや犬などの動物においても、幼体特有の身体的特徴が大人の保護本能を引き出す共通のシグナルとして機能していることを見出した。
ローレンツの洞察は時代を超えて検証され続けている。彼の提示したモデルによれば、額が広く飛び出していることや、頬がふっくらと丸みを帯びていることが、人間の脳に対して強力な「解除刺激」として作用する。つまり、敵意や攻撃性を和らげ、無条件に庇護したいと思わせるスイッチの役割を果たしているのだ。この視覚的トリックこそが、自力では歩くことも食事をすることもできない人間の赤ん坊が、厳しい自然界で生き延びるための最強の防衛策だったと言える。