本作の核心であり、国語のテストや解説で最も深く問われるのが、「葉書の印の変化」と「父親の心理描写」の連動です。父親が手渡した葉書は、単なる通信手段ではなく、遠く離れた幼子の生死を確認する唯一の命綱でした。
届いた葉書の変遷は、妹の過酷な生活実態と、それを見守る父親の張り裂けそうな胸中を克明に物語っています。
- 元気いっぱいの「大丸(〇)」:疎開先で懸命に元気に振る舞う妹と、それを見て安堵し誇らしげに自慢する父親の喜び。
- 小さくなった「小丸(○)」:慣れない集団生活、寒さ、食糧不足による衰弱と、父親の胸に去来する焦燥感。
- 弱々しい「バツ(×)」:体調を崩し、心身ともに限界を迎えた妹のSOSと、何もしてやれない父親の激しい苦悩。
- 途絶えた便り:生死の危機を直感した家族の緊迫感と、母親を現地へ急行させる決断。
そして迎えた帰還の日。普段は威張り散らし、子どもたちに手を上げることもあった暴君の父が、妹の姿を見るや否や、「素足のまま土間に駆け降り、妹を抱きしめて声を上げて泣いた」のです。
この父親の涙の理由には、複数の感情が複雑に絡み合っています。第一に、幼い娘を危険な目・ひもじい目に遭わせてしまった親としての強い罪悪感と無力感。第二に、変わり果てた姿になりながらも生きて我が家に帰ってきてくれたことへの底知れぬ安堵。そして第三に、平時の「家父長」という厳格な仮面をかなぐり捨てるほどに溢れ出した純粋で不器用な家族愛です。