日本のラーメン史において、2010年代初頭は「煮干しルネサンス」とも呼ぶべき変革期でした。その中心地となったのが、つくば市に移転オープンした煮干中華ソバイチカワです。それまで煮干しといえば、青森の津軽ラーメンや東京・永福町大勝軒系に代表されるノスタルジックな醤油ラーメン、あるいは煮干しのエグみを極力抑えた和風出汁の文脈で語られることが大半でした。しかし、イチカワ店主が提示したアプローチは、煮干しの旨味だけでなく、特有のビターさや酸味、芳醇な香気成分を丸ごと抽出・再構築するという、かつてないほど鮮烈なものでした。
業界関係者や古参のラーメン評論家の証言によれば、「イチカワの登場によって、煮干しは単なる出汁の素材から、主役として味の濃淡やグラデーションを表現する芸術素材へと昇華した」と評されています。灰褐色に濁る濃厚スープから、黄金色に澄み渡る淡麗スープまで、煮干しのブレンド技術と温度管理を極限まで突き詰めた一杯は瞬く間に全国へ衝撃を与えました。全国各地で名店と呼ばれる数多くの店主たちがつくばの地に足を運び、その技術と思想にインスパイアされた結果、現在の全国的な煮干しラーメンブームが形成されたのです。
そして、同店を語る上で欠かせない歴史的偉業が「和え玉(あえだま)」の考案です。単なるスープの追加麺(替玉)ではなく、少量のタレ、煮干し油、刻みチャーシュー、薬味をあらかじめ麺に絡め、そのまま油そばのように食べてもよし、残ったスープにつけ麺風に浸してもよしという重層的な食べ方を世界で初めて確立しました。この発明は、一杯のラーメン体験を「序幕」から「第2幕」へと展開させるストーリー性を生み出し、外食産業における提供フォーマットそのものを革新しました。