なぜ中島みゆきは、これほどまでに強烈なタイトルを楽曲に冠したのか。その核心に迫ると、単なる色恋沙汰の破綻を超えた、人間関係における「信義」の崩壊という普遍のテーマが浮かび上がる。人は誰しも、信じていた相手に裏切られたとき、自分自身を責めるか、あるいは無力感に沈んでしまいがちだ。しかし本作の主人公は、決して惨めな被害者の座に甘んじようとはしない。
歌詞中で描かれるのは、尽くした過去を後悔する弱さではなく、誠意を踏みにじった相手を断罪する圧倒的な自立心である。「恩知らず」と名指しすることは、相手の不誠実さを客観的に見切り、自分自身の誇りを取り戻すための通過儀礼に他ならない。人間関係の希薄化が叫ばれる現代において、この妥協なき言葉の数々は、傷つき立ちすくむ人々の背中を力強く押し出している。