中島歩の俳優人生は、決して順風満帆なエリートコースではありませんでした。日本大学藝術学部文芸学科に在籍していた学生時代、モデルとして活動をスタートさせながらも、表現者としての強い情熱を抱き続けていました。
転機となったのは2013年、美輪明宏が主演・演出を手がけた伝説的舞台『黒蜥蜴』の主要キャストオーディションです。約200名もの応募者の中から、美輪明宏の厳しい審美眼によって雨宮潤一役に大抜擢され、本格的な俳優デビューを果たしました。美輪明宏から叩き込まれた徹底的な発声法、立ち居振る舞い、戯曲の深層を読み解く読解力は、中島歩の演技の強固な土台となりました。
その舞台経験直後に挑んだのが、NHK連続テレビ小説『花子とアン』のオーディションです。当時、テレビドラマのレギュラー出演経験が皆無だった無名の若手俳優でありながら、演出陣の目を引いたのは、現代の若者には珍しい「大正・昭和初期の空気を纏える佇まい」と骨太な知性でした。プロデューサー陣は「華奢で現代的なイケメンではなく、思想に命を懸ける男の哀愁と説得力を体現できる逸材」として、中島歩を満場一致で宮本龍一役に選出したと当時の制作発表で明かされています。