サッチャリズムが残した爪痕は、今なお都市の風景や人々の生活習慣の中に深く刻み込まれている。ロンドンの超高層金融街の煌びやかな繁栄の真裏で、かつて炭鉱や鉄鋼で栄えた北部イングランドの旧工業地帯には、何世代にもわたる構造的貧困が影を落とす。
労働運動を徹底的に抑え込み、富の再分配機能を削ぎ落とした結果生じた格差の固定化は、ポピュリズムの台頭やブレグジット(EU離脱)の遠因となった。公共インフラの民営化は効率化をもたらした一方で、水道や鉄道のサービス低下と料金高騰という形で市民生活に跳ね返っている。
彼女を救世主と崇める層と、国家を破壊した元凶として呪う層。この埋めがたい断絶そのものが、彼女の遺産が今も生々しく呼吸している証拠にほかならない。