中世からルネサンス期にかけて、ヨーロッパは厳格なキリスト教社会だった。その中で、ギリシャ神話の異教の女神を、しかも等身大の全裸で描くことは、本来であれば「異端」として厳しく罰せられる対象だった。
それでもこの絵が破壊されなかったのは、ひとえにメディチ家という強大な権力者がパトロンとして守り抜いたからに他ならない。しかし、それは常に教会からの監視と背中合わせの危険な行為だった。
ヴィーナスのどこか憂いを帯びた、冷めたような表情。それは、神の教えに背いて異教の美を賛美することへの、画家自身の罪悪感と恐怖が投影されているようにも見える。