クマの冬眠は、単なる「寒冷期のお休み」ではない。心拍数を毎分十数回にまで落とし、排泄も摂食も一切行わずに数ヶ月を過ごす、極めて精緻な生命維持システムである。この生理機能の異変について、北海道大学名誉教授の坪田敏男氏をはじめとする野生動物医学の専門家らは、内分泌系や代謝サイクルの乱れを指摘する。気候の乱高下と栄養失調が重なることで、メラトニン分泌や体温降下を司る体内時計が正常に作動しなくなっている可能性があるのだ。
また、ツキノワグマの行動生態学を長年牽引してきた東京農業大学の山﨑晃司教授は、人間側の土地利用変化とクマの学習能力の高さに警鐘を鳴らし続けている。森林研究・整備機構 森林総合研究所による長期モニタリングでも、山林の荒廃と里山の緩衝地帯消失が、クマの行動圏を不可逆的に人里側へと押し広げている実態が克明に記録されている。冬眠に入れないのではなく、「人里に降りれば冬でも高カロリーな食物が手に入る」と学習した新世代の個体が定着しつつあるのだ。