爪自体は硬いケラチンというタンパク質で構成されており、自ら色素を作り出す能力はありません。爪に現れる黒や茶色の縦筋は、爪甲(爪の硬い板状の部分)そのものではなく、爪を作る根元の皮膚組織である爪母(そうぼ)に存在するメラノサイト(色素細胞)の活動、あるいは爪床(爪の下の皮膚)の血管状態が反映されたものです。
臨床現場において確認される爪の黒い線の原因は、大きく分けて以下の4つの要因に集約されます。
第1に挙げられるのが、良性の色素沈着である爪甲色素線条(そうこうしきそせんじょう)です。これは爪母に存在するメラノサイトが活性化し、メラニン色素を過剰に産生することで、爪が伸びる過程に沿って均一な褐色の縦線が形成される現象です。爪の「ほくろ(色素性母斑)」や「シミ(雀卵斑様病変)」に相当し、成人のみならず小児期にも頻繁に見られます。
第2の要因は、外傷や摩擦による爪下出血です。ドアに指を挟んだ、激しいスポーツで爪先に衝撃が加わった、あるいはきつい靴で圧迫された際に、爪の下の毛細血管が破綻して血液が溜まります。初期は赤黒く見えますが、時間が経過するにつれて酸化し、黒褐色〜黒色の斑点や線状に変化します。
第3の要因は、全身性の要因や薬剤の影響です。アジソン病などの内分泌疾患、抗がん剤や抗マラリア薬などの特定薬剤の副作用、さらには重度のビタミンB12欠乏症などによって爪母のメラノサイトが一斉に刺激され、複数の爪に同時に黒褐色〜灰色の線条が出現することがあります。
そして第4の、最も警戒すべき要因が悪性黒色腫(爪部メラノーマ)です。爪母のメラノサイトが悪性化し、無秩序に増殖することで不均一で濃淡のある黒い線条を形成します。日本人を含む東洋人において、メラノーマは足の裏や手足の爪(末端黒子型メラノーマ)に好発する傾向が報告されており、早期発見が生存率を大きく左右します。