渥美二郎のヴォーカルスタイルは、過度なこぶしに頼らず、言葉の一つひとつを丁寧に置くような繊細さが特徴だ。『人恋酒』においてその真価は遺憾なく発揮されている。日本コロムビアのエンジニア陣は、彼の息遣いや唇の発音ノイズすらも「哀愁の隠し味」としてあえて残すミキシングを施した。アナログテープの時代の職人技が、楽曲に立体的な奥行きを与えている。
演歌という言葉が持つ既成概念を壊し、誰もが胸に抱く「人恋しさ」を普遍的な芸術へと昇華させたこの録音工程。そこには、レコードという媒体に命を吹き込もうとした当時の音楽職人たちの執念そのものが刻み込まれている。