少女漫画史におけるもう一つの巨大な山脈といえば、美内すずえによる『ガラスの仮面』を挙げないわけにはいかない。雑誌「花とゆめ」(白泉社)で産声を上げて以来、半世紀近くにわたり読者を惹きつけてやまない演劇大河ロマンだ。何の取り柄もないと思われていた平凡な少女・北島マヤが、ひとたび舞台に立つや他者を圧倒する憑依的な演技の才を開花させていく。そのスリリングな展開は、あらゆるエンターテインメントの原点ともいえるカタルシスを放つ。
ライバル・姫川亜弓との誇り高き激闘、冷徹な劇団役員でありながら陰でマヤを支え続ける「紫のバラの人」こと速水真澄との切なすぎる愛の交錯。一コマごとに張り詰める凄まじい緊張感と感情の爆発は、現代のスピード感あふれるカルチャーに慣れた若い読者をも一瞬で呑み込む。世代を超えて語り継がれるこの未完の傑作は、人間の「情熱」そのものを可視化した奇跡的な作品だ。