香港からロンドンへと向かう乗合バスの旅を描いた『深夜特急』は、単なる旅の記録ではない。新潮社から刊行されたこの作品は、若者たちのバイブルとなり、旅立つことの意味を問い続けた金字塔である。当時、若者の間ではバックパッカー文化が花開こうとしていたが、本作が果たした役割は単なるガイドブックの代用品ではなかった。
見知らぬ土地の匂い、カジノの熱気、路上でのふとした出会い。旅先で遭遇する些細な出来事が、鮮烈な言葉によって命を与えられていく。優れた旅行記とは、著者の視線を通して世界を再構築する試みであることを、本作は証明してみせたのだ。