数字のトリックに騙されてはならない。求人票に記載された「実働7時間30分」という文言は、嘘ではないが真実でもない。
路線バスのシフトには「中休(ちゅうきゅう)勤務」と呼ばれる、業界特有の歪な勤務形態が今も平然と居座っている。朝6時半に出社して朝の通勤ラッシュを3時間捌く。そこから昼下がりの15時まで、4時間から5時間の「休憩」という名の空白がぽっかりと空く。そして夕方の帰宅ラッシュと深夜便を担当し、営業所を出るのは夜21時半過ぎ。拘束時間は15時間に及ぶ。
この間、自宅に帰る時間などない。運転手たちは営業所の古びた仮眠室の万年床で泥のように眠るか、パイプ椅子でスマホを眺めて時間を潰すしかない。拘束されているにもかかわらず、この中休時間は無給、あるいは雀の涙ほどの手当数十円で処理される。拘束時間で割れば、実質的な時給は地方の最低賃金を下回る計算だ。拘束されている人生の時間は誰のものなのか。会社に一日を丸ごと差し出しているにもかかわらず、支払われるのは「7時間分」の賃金だけである。