元に戻らない塑性変形とは?弾性との決定的な違いとメカニズムを解説について分かりやすく解説いたします。専門家の見解をチェックしてください。

では、金属内部では一体何が起きているのか。金属は一見すると隙間のない均一な塊に見えるが、ミクロの世界では原子が規則正しく並んだ「結晶構造」を形成している。

かつて物理学の黎明期には、「金属が塑性変形するのは、原子の面全体が一斉にズレるためだ」と考えられていた。しかし、その計算から導き出される理論的な強度は、実際の金属が変形し始める強度の約100倍から1000倍も高くなってしまい、現実の数値と致命的な乖離が生じていた。この長年の謎を解き明かしたのが、結晶内部に存在する格子欠陥の一種である「転位(dislocation)」の発見である。

転位とは、規則正しい原子の並びの中に、局所的に原子が1列分余計に入り込んだり抜けたりしている「ズレの線」を指す。重い絨毯を部屋の端から動かそうとするとき、全体を一度に引っ張るには莫大な力が必要だが、絨毯の端に小さな波(シワ)を作り、そのシワを反対側へ向かってトントンと押し進めていけば、小さな力で絨毯全体を移動させられる。金属の塑性変形はこの絨毯のシワと全く同じ原理だ。外力を受けると、結晶中の「転位」が1原子列ずつドミノ倒しのように滑り面(すべりめん)に沿って移動していき、最終的に結晶表面へ抜けることで、金属全体として永久的な形状変化が完了する。

さらに興味深いのが加工硬化(加工硬化の仕組み)と呼ばれる現象である。金属を曲げたり叩いたりして塑性変形を連続して与え続けると、結晶内部で無数の転位が新しく発生する。ある限界を超えると、互いに異なる方向へ進もうとする転位同士が激しく衝突し、絡み合って身動きが取れなくなってしまう。結果として転位が移動しにくくなり、「変形が進むほど材料の硬さと強度が増す」という状態が生まれる。針金を何度も同じ場所で往復して折り曲げていると、次第に曲げるのが硬くなり、最後にはポキリと折れてしまう現象は、この加工硬化によって延性(しなやかさ)が失われ、破壊へと至る典型例である。