琴奨菊の代名詞といえば、言うまでもなく相手の懐深く飛び込み、下から煽り立てるように攻め立てる「がぶり寄り」である。相手の体勢を崩しながら重戦車のように土俵外へと押し出すスタイルは、観客の血を湧き立たせた。相手の足が土俵俵にかかるギリギリの攻防で見せる粘り腰は、対戦相手にとってまさに悪夢そのものだったと言える。
また、取組直前の仕切りで見せる「琴バウアー」と呼ばれるストレッチも、大相撲の場内に一風変わった熱気をもたらした。観客席の誰もが息を呑み、カメラのフラッシュが一斉に焚かれるあの瞬間。単なるパフォーマンスではなく、自身の集中力を頂点まで高め、極度の緊張を解きほぐすための緻密なルーティンであったことが、後に本人の口から明かされている。