一方、日本国内に目を向けると、全国各地の寺社には「人魚」や「鬼」「河童」といった妖怪のミイラが数多く所蔵されています。中でも学術界に大きなインパクトを与えたのが、岡山県浅口市の円珠院が所蔵する「人魚ミイラ」に対する倉敷芸術科学大学などの合同研究チームによる包括的調査です。
門外不出の寺宝として守られてきた全長約30センチの人魚ミイラに対し、CTスキャン、電子顕微鏡観察、放射性炭素年代測定を駆使した分析が行われました。その結果、内部には骨格が存在せず、布や紙を芯材に綿を詰め、石膏状の粉末で肉付けした構造であることが明らかになったのです。上半身の表面にはフグの皮が貼られ、口元にはニベ科の魚の歯が埋め込まれ、下半身には本物の魚の皮と鱗が接合されていました。
年代測定では1800年代後半(幕末〜明治初期)の制作であることが特定されました。しかし、寺院関係者や研究者が強調するのは「単なる詐欺と切り捨てることはできない」という点です。当時はコレラなどの疫病が猛威を振るっており、人魚や神社仏閣の霊獣は災厄を祓う信仰の対象として人々の精神的支柱となっていました。偽物でありながら、人々の祈りを受け止めてきた尊い民俗遺産としての価値が再評価されています。