名門・出羽海部屋の門を叩き、瞬く間に幕内へと駆け上がった御嶽海久司。その強靭な体躯と柔軟な取り口の根底には、幼少期から母が注ぎ続けた桁外れの愛情がある。フィリピンから嫁ぎ、言葉や文化の壁にぶつかりながらも、マルガリータさんは決して弱音を吐かなかった。
「身体を大きくしなければ勝てない」と知れば、スナックの仕込みの合間を縫って巨大な鍋いっぱいにシニガン(フィリピンの酸味あるスープ)やアドボを煮込み、息子の胃袋へと流し込んだ。肉を惜しみなく使ったスタミナ料理の数々。大相撲界という伝統と規律に縛られた厳しい勝負の世界へ挑む息子に対し、母が授けたのは屈託のない自己肯定感と、異国の地で生き抜くための野生の強さだった。土俵で見せる御嶽海の勝負度胸は、まさに母が厨房で流した汗の結晶である。