長男が選んだ静かな生活の偉大さを理解するには、母がかつて芸能界で残した足跡の巨大さを振り返る必要がある。日本テレビ放送網が制作した伝説のオーディション番組『スター誕生』のグランドチャンピオンとして彗星のごとく現れ、名門サンミュージックプロダクションの看板を背負った彼女の人気は凄まじかった。
単なるアイドル歌手にとどまらず、女優としての才能も際立っていた。山田洋次監督の国民的映画『男はつらいよ 葛飾立志篇』での瑞々しい演技や、市川崑監督が手掛けた金田一耕助シリーズの傑作『病院坂の首縊りの家』で見せた圧倒的な存在感は、今なお日本映画史の金字塔として語り継がれている。天性の表現力を持った母の血を引く長男が、あえてその世界と距離を置いた事実には深い意味がある。