本作の骨格をなしているのが、中世キリスト教の教理に由来し、ダンテの『神曲』やチョーサーの『カンタベリー物語』など文学作品でも描かれてきた「七つの大罪(Seven Deadly Sins)」です。犯人ジョン・ドゥは、退廃した近代都市において罪悪感を喪失した人間たちを自らの手で裁き、後世に語り継がれる「説教」として連続殺人を実行しました。
劇中で執行された「七つの大罪」の全貌:
- 暴食(Gluttony):肥満男性に無理やり食物を詰め込ませて内臓破裂に追い込む
- 強欲(Greed):私利私欲にまみれた強欲な弁護士に自らの肉体を切り取らせて失血死させる
- 怠惰(Sloth):麻薬密売人を1年間にわたりベッドに拘束し、生ける屍と化すまで放置する
- 肉欲(Lust):風俗街の男を脅迫し、特注の凶器を用いて娼婦を殺害させる
- 高慢(Pride):自らの美貌に執着するモデルの顔を切り刻み、醜い姿で生きるか自殺するかの選択を迫る
そして物語は、残る2つの大罪――「嫉妬(Envy)」と「憤怒(Wrath)」が交錯する砂漠の荒野へと雪崩れ込みます。
あのダンボール箱の中身とジョン・ドゥの完全勝利
荒野に配送された謎のダンボール箱。サマセットが箱を開けて目撃し、恐怖に顔を歪めた中身は、ミルズの最愛の妻トレイシーの生首でした。ジョン・ドゥは、ミルズが享受していた平穏な家庭の幸せを自らが「嫉妬」したと告白し、その大罪ゆえにトレイシーを殺害したと語ります。
ジョン・ドゥの究極の目的は、自らをミルズの手で射殺させることでミルズを「憤怒」の大罪の体現者に仕立て上げ、自らの命を犠牲にして七つの大罪のパズルを完成させることでした。サマセットの必死の制止も虚しく、狂気と絶望に呑まれたミルズは引き金を引きます。犯人は死に、刑事は罪人へと堕ちる――悪が完全に自らのシナリオを完遂するという、映画史上最も残酷で美しいチェックメイトが成立した瞬間でした。
スタジオの猛反対を退けたブラッド・ピットの戦い
この救いのない結末に対し、製作会社ニュー・ライン・シネマの幹部たちは公開直前まで激しく抵抗しました。「トレイシーの首ではなく愛犬の首に差し替えるべきだ」「サマセットが間一髪で犯人を撃ち、ミルズの手を汚させないハッピーエンドにするべきだ」という修正案が次々と提示されたのです。
しかし、ブラッド・ピットはフィンチャー監督とともにこれを断固として拒否しました。ピットは出演契約を結ぶ際、「脚本通りの結末(箱の中身はトレイシーの首であり、ミルズが犯人を撃つこと)を一切変更しないこと」を契約書に明記させていました。スター俳優がキャリアを賭けて契約の権利を行使したからこそ、映画史に残るあの伝説のクライマックスは改変されずに守られたのです。