本作の心臓部を担うのは、妥協を知らない映画監督と、極限まで自己を削ぎ落として役になりきった主演俳優の凄まじい対峙だ。二人が現場で交わす言葉は極端に少なかったという。だが、その沈黙こそが最も雄弁な演出だった。
息をもつかせぬスリリングな展開が連続するサスペンス映画の骨格を持ちながら、物語の深層に流れるのは、孤独や救済を巡る濃密なヒューマンドラマだ。張り詰めた心理描写が続く中、主演俳優が見せたアドリブの芝居に、監督が思わずモニター前で言葉を失った瞬間があった。カットの声がかかった後もスタジオは静まり返り、スタッフ全員が圧倒されていたという証言が残っている。