伊武雅刀という表現者の規格外な歩みを理解するうえで、若い頃の多面的なキャリアを振り返ることは欠かせません。東横学園(現・東京都市大学付属)などを経て俳優座養成所に学んだ後、劇団雲の研究生となるなど、正統派の舞台演劇で基礎を徹底的に叩き込まれました。しかし、世間にその名を轟かせた発火点は、演技者としての枠を大きく踏み越えた領域にありました。
最大の転機となったのは、1974年に放送が開始されたアニメ『宇宙戦艦ヤマト』です。伊武雅刀が演じたガミラス帝国総統・デスラーは、冷酷無比な侵略者でありながら気品と哀愁を漂わせる希代の敵役として、日本アニメ史に刻まれるキャラクターとなりました。傲慢さと高貴さが同居したあのベルベットのような美声は、当時のアニメブームに決定的なインパクトを与えました。
さらに1970年代末から1980年代初頭にかけて、桑原茂一、小林克也とともに結成した『スネークマンショー』での活動は、サブカルチャー界の伝説となっています。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のアルバム『増殖(X∞Multiplies)』への参加などを通じ、毒気に満ちたブラックユーモア、シュールなコント、アヴァンギャルドなギャグを連発。「ホテル・ニュー越谷」をはじめとする伝説的スケッチで見せた狂気とナンセンスは、当時の若者カルチャーを熱狂させました。
その後、1987年にはスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『太陽の帝国』で長田軍曹役に抜擢され、国際的にもその名を知らしめます。舞台から声優、コント、そして世界配給の超大作映画へ。どのような枠組みにも収まらないボーダーレスな活動歴こそが、現在の怪優としての骨格を形作ったのです。