伝統的な花鳥画の枠組みを根底から解体した構図の奇抜さも、若冲が天才たる所以である。狩野派のように既存の粉本(手本)をなぞることを嫌った彼は、自宅の庭に数十羽の軍鶏を放し飼いにし、その生態を何年も凝視し続けたという。
『群鶏図』では、画面いっぱいに重なり合う鶏たちが幾何学的なパターンを形成し、まるでモダンアートのような抽象性すら漂わせる。また『諸魚図』や『池辺群虫図』では、水中の魚や泥に潜む無数の昆虫、爬虫類までもが、偏執的なまでのリアリズムとユーモアを交えて描き出されている。
静止した自然を写し取るのではなく、生きとし生けるものが発する生々しいエネルギーを画面に封じ込める。江戸絵画の歴史において、これほど徹底した対象観察と大胆なトリミングを両立させた絵師は他にいない。