騒動の真相を解明する前に、まず社会を席巻した『一杯のかけそば』のあらすじ結末を整理します。舞台は昭和40〜50年代の札幌にある蕎麦屋「北海亭」。12月31日の閉店間際、みすぼらしい身なりをした母親と2人の幼い兄弟が訪れ、申し訳なさそうに「かけそばを1杯だけ」注文します。店主夫婦は嫌な顔一つせず、温かく迎え入れ、内緒で半玉分多めに茹でて提供しました。
翌年の大晦日にも親子は現れ、やはり1杯のかけそばを分け合います。3年目には2杯を注文し、母親は亡き夫が起こした交通事故の多額の賠償金を払い終えたことを告白。店主夫婦は涙を流しながら親子を励まします。そして十数年後の大晦日、立派に成長した長男(医師)と次男(銀行員)が母を連れて北海亭を再訪し、「かけそばを3杯」注文して感謝を伝えるという感動の結末を迎えます。
この物語は、作者の栗良平氏が「口演童話」として各地で語り歩く中で広まり、「北海道の北海亭で本当に起きた実話」としてメディアに紹介されました。当時、バブル景気の狂乱の中で希薄化していた「家族の絆」や「人情」「美徳」を象徴する物語として、ラジオ放送を皮切りに爆発的な反響を呼んだのです。