本作の演出を手掛けた塚原あゆ子と脚本の野木亜紀子が仕掛けた最大のクライマックス、それが「崩れたロールケーキ」「社長宅の祝宴」「夜空の花火」が交錯するラスト数分間のモンタージュです。
深夜、瀕死の状態で配達を終え、家族のもとへ帰ろうとバイクを走らせていた佐野。意識が薄れ、バイクごと転倒した彼がアスファルトに倒れ込みながら見上げた夜空には、近隣の工場地帯から打ち上げられた色鮮やかな花火が咲き誇っていました。道路には、子どもたちへのお土産だったはずの崩れたケーキが無残に転がっています。
その瞬間、絶妙なタイミングで米津玄師の「Lemon」のイントロである〈夢ならばどれほどよかったでしょう〉というフレーズが流れ始めます。カメラは、冷酷な搾取を行っていた社長一家が豪奢な自宅で笑顔でケーキを頬張る光景と、夫の帰りを信じて玄関の明かりを灯し続ける妻と幼い子どもたちの姿を冷徹にカットバックさせます。
「美味しいケーキを食べて誰かが笑う陰で、誰かが血を吐くような思いで働いている」。その残酷な資本主義の不条理を、言葉による説明を排し、映像美と音楽だけで完璧に表現し切りました。このシーンの美しさと痛ましさこそが、視聴者の涙腺を決壊させ、今なお語り継がれる最大の要因となっています。