野村萬斎の名を狂言ファン以外にも決定的に刻み込んだのが、2001年公開の映画『陰陽師』における安倍晴明役です。
原作者の夢枕獏氏が「萬斎氏以外には考えられない」と熱烈にオファーしたこの役柄は、狂言仕込みの美しい指先の所作、烏帽子と狩衣を着こなす圧倒的な立ち姿、そして低音で響く呪文の詠唱によって、日本映画史に残る伝説的キャラクターとなりました。この萬斎版・安倍晴明の所作と世界観は、後にフィギュアスケートの羽生結弦選手がプログラム「SEIMEI」を演じる際にも多大なインスピレーションを与え、萬斎自身が羽生選手へ直接アドバイスを送った対談も大きな話題を呼びました。
さらに映像作品における萬斎の存在感は、近年の大河ドラマでも遺憾なく発揮されています。2026年のNHK大河ドラマ『どうする家康』における今川義元役では、従来の「桶狭間で討たれた公家かぶれの武将」というステレオタイプを完全に覆し、高潔で威厳に満ちた名君としての義元を演じ切りました。第1話を中心とする限られた出演時間でありながら、主人公・徳川家康の生涯の師としての圧倒的な説得力を残し、SNS上では「今川義元の概念が変わった」と絶賛の嵐が巻き起こりました。
その他にも、映画『のぼうの城』(2012年)での飄々としながら民を率いる成田長親役や、映画『七つの会議』(2019年)でのぐうたら社員でありながら組織の闇を暴く八角民夫役など、萬斎の映像出演作はいずれも高い興行収入と評価を記録しています。