日常会話やメディアで使われる「羊の王様」というフレーズには、使う業界によって明確な棲み分けが存在する。アパレル業界において王様といえば満場一致でメリノ種(Merino)を指し、グルメ界や畜産界で王様といえばサフォーク種(Suffolk)を指すのが通例だ。
この二重基準が生まれた最大の理由は、羊という動物が人間の生活に合わせて「毛を極限まで追求した系統」と「肉の美味しさを極限まで追求した系統」に高度に分化していった歴史にある。中途半端な兼用品種ではなく、それぞれの分野で他を圧倒する特化型の進化を遂げた結果、両者がそれぞれの領域で「王様」の称号を獲得するに至った。
さらに動物学的な視点に立てば、中央アジアの山岳地帯に生息する世界最大の野生羊アルガリ(Argali)が、その巨大な螺旋状の角と威厳ある体躯から「野生羊の王」として畏敬を集めてきた。このように、用途や視点ごとに異なる頂点が存在することこそが、「羊の王様」の正体である。