荒木あかねの名を不動のものにした『此の世の果ての殺人』。小惑星の衝突まで残り約二ヶ月、人類滅亡が確定した絶望のディストピアを舞台に据えた特殊設定ミステリの傑作である。
世界が狂乱と無秩序に沈むなか、主人公はなぜか自動車教習所へ通い、そこで起きた凄惨な殺人事件の謎を追う。一見すると不条理とも思えるこの舞台設定そのものが、実は犯人の心理と犯行手順に直結する巨大な布石だった。散りばめられた無数の手がかり。登場人物たちの何気ない会話や教習車の計器類、終末を目前にした街の風景描写に至るまで、後半の怒涛の伏線回収によって驚愕の真実へと収斂していく。
「世界が終わるとしても、解かれなければならない謎がある」。絶望の淵で紡がれる論理の光は、本格ミステリの醍醐味を極限まで純化させた奇跡的なカタルシスを読者にもたらす。