内分泌学の教科書や医療データベースをいくら調べても、血糖値を下げるホルモン一覧に並ぶ名称はただ1つ、膵臓から分泌される「インスリン」だけです。一般には「ほかにも類似の物質があるのでは」と想像されがちですが、医学的に確認されている単独降下ホルモンは他に存在しません。
この極めて重大な役目を一手に担っているのが、膵臓ランゲルハンス島β細胞です。胃の背側に位置する膵臓の中に点在する微小な細胞集落(ランゲルハンス島)において、β細胞は全体の約60〜70%を占めています。食事によって血中のブドウ糖濃度が上昇すると、β細胞は即座に糖を感知し、蓄積していたインスリンを血中へと放出します。
血流に乗ったインスリンが標的とするのは、主に骨格筋細胞、肝臓、そして脂肪組織です。看護roo!などの専門医療情報でも整理されている通り、インスリンの働きの核心は「細胞のゲートを開く鍵」として機能することにあります。骨格筋や脂肪細胞の表面にあるインスリン受容体にインスリンが結合すると、細胞内部にシグナルが伝達され、細胞内に潜んでいたブドウ糖輸送担体「GLUT4(グルコーストランスポーター4)」が細胞膜の表面へと急速に浮上(移行)します。
このGLUT4という扉が開くことで、血液中に溢れていたブドウ糖が細胞内に雪崩れ込み、エネルギー源として消費されたり、グリコーゲンや中性脂肪として貯蔵されたりします。結果として血中の糖分が速やかに減少し、血糖値が平常値(空腹時で70〜109mg/dL程度)へと引き下げられる仕組みです。言い換えれば、インスリン受容体やGLUT4の連携にわずかでも障害が生じれば、体内に溢れた糖を回収する代替ルートは存在しないことを意味しています。