多くの人を悩ませる寝すぎ頭痛の決定的な理由は、自律神経の急激なスイッチの切り替わりと、それに伴う脳の血流動態の激変に隠されています。平日の仕事中、私たちの身体はストレスや責任感によって交感神経が優位に働き、脳内の血管は適度に収縮した状態に保たれています。ところが、金曜の夜から土曜の朝にかけて緊張の糸が一気に切れると、リラックスを司る副交感神経が急激に優位へ傾きます。この時に生じるのが副交感神経と血管拡張の連鎖反応です。
脳の血管が過度に太く拡張すると、血管を取り巻く頭部最大の知覚神経である「三叉(さんさ)神経」が物理的に圧迫されます。刺激を受けた神経末端からはサブスタンスPやCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)といった炎症性神経伝達物質が放出され、血管周囲に無菌性の神経原性炎症が発生します。これが、脈拍に合わせてズキンズキンと痛む拍動性頭痛の正体です。おおるり脳外科クリニックなどの専門医も指摘するように、過剰な睡眠はリフレッシュではなく、生体リズムにとって急激な血行動態の乱れをもたらす物理的ストレスになり得ます。
加えて見逃せないのが、セロトニン分泌と睡眠リズムの密接な相互関係です。脳内のセロトニンは、血管のトーヌス(緊張度)を適切に保ち、痛みの閾値をコントロールする重要な神経伝達物質です。通常は朝の光を浴びることで網膜からシグナルが送られ、活発に生合成が始まります。しかし、休日に遮光カーテンを閉め切ったまま昼過ぎまで寝続けると、セロトニンの分泌開始が大幅に遅延します。結果として血中セロトニン濃度が低下し、一度収縮していた血管が反動で一気に拡張して激痛を招くのです。単に「長く寝た」ことそのものよりも、「生体リズムを無視して起床時刻を大きく遅らせた」ことこそが、痛みのトリガーとなります。