近年、全国ニュースを騒がせ続けている熊の人里出没。この異常事態の引き金を引いているのも、彼らの主食サイクルである。森林総合研究所の長期観測データが示す通り、ブナやミズナラは数年に一度、広範囲で一斉に実をつけない「大凶作」の年を迎える。森から主食が完全に消滅したとき、熊たちはパニック的な飢餓状態に陥る。
NHKスペシャルの現地追跡取材でも克明に描かれたように、山でドングリを得られなくなった個体は、生き残るために標高を下げざるを得ない。そこで彼らが出会ってしまうのが、放置された柿の木、生ゴミ、放棄された農作物、そして甘い匂いを放つ果樹園だ。
「人里に行けば、山を何日も歩き回るより簡単にハイカロリーな食料が手に入る」——この味を一度覚えた熊は、森に食料が戻っても人里への執着を捨てきれなくなる。出没問題の本質は凶暴化ではなく、主食の枯渇による採餌行動の歪みなのだ。