全国各地で熊の市街地出没が過去最悪レベルで記録される背景には、単なる個体数の増減だけでなく、森の生態系と人里の境界線に生じた深刻な構造変化が存在します。
最大の直接的要因は、気候変動に伴う山林の餌不足(堅果類の凶作)です。夏の記録的猛暑や局地的な豪雨、春先の異常気象によって、ツキノワグマの命綱であるブナやミズナラが広範囲で大凶作に見舞われる年が頻発しています。秋に十分などんぐりを摂取できない熊たちは、冬眠前の極度の飢えに突き動かされ、本来なら決して近づかない人間の居住エリアへと下りてこざるを得なくなっています。
さらに深刻なのが、地方の過疎化と高齢化による「里山(緩衝地帯)の消滅」です。かつて人間と熊の境界線として機能していた手入れされた薪炭林や農地が放棄され、鬱蒼とした藪が住宅街のすぐそばまで迫っています。その結果、熊は身を隠しながら市街地深くまで侵入できるようになりました。
住宅街のゴミステーションに捨てられた生ゴミ、手入れされず放置された家庭菜園のカキやクリ、ペットフード、さらには農地周辺に放置された野菜くずなど、人里には「山林よりも手軽に手に入る高カロリーなご馳走」が溢れています。これらに味をしめた「アーバン・ベア(都市型熊)」は人間への恐怖心を完全に失っており、肉食化と同様に人間の生活圏そのものを自らの餌場として認識し始めています。