森の奥へと続く石段を降りると、空気の密度が一変するのを感じる。肌をかすめる風がひんやりと冷たい。かつて「海水のように水面が上下する」と語り継がれた奇妙な現象からその名がついたとされるが、地質学者たちを長年悩ませてきたそのメカニズムは、現在も完全には解明されていない。
阿蘇の複雑な火山性地層が天然の巨大なフィルターとなり、数十年もの歳月をかけてろ過された地下水。無数の気泡を伴って砂地の底から湧き上がる光景は、地球の呼吸そのものだ。「子どもの頃からこの水を飲んで育ちました。水量が減る時期もあれば、溢れ出す時期もある。生き物と同じですよ」と、近くに住む高齢の男性は穏やかに微笑む。