興福寺五重塔がこれほどの大規模修繕に入るのは、明治33年(1900年前後)に行われた「明治の大修理」以来、実に120年以上ぶりのことです。なぜ今、莫大な期間と費用を投じた修理が必要となったのでしょうか。
最大の要因は、屋根瓦の深刻な劣化とそれに伴う雨漏りです。五重塔の各層を覆う本瓦は長年の風雨や凍結・熱伸縮に晒され、ひび割れやズレが生じていました。隙間から浸入した雨水が内部の主要構造材(垂木や組物)を腐食させ、このまま放置すれば塔全体の構造耐力に致命的なダメージを及ぼす危険性が浮上したのです。
また、外壁の漆喰の剥落や、木部の接合部における緩みも各所で確認されました。興福寺の五重塔は一度全体を地面まで完全にバラバラにする「全解体」ではなく、構造を維持しながら傷んだ部材や屋根を修繕する「半解体・部分解体修理」の手法が採られています。千年の技を誇る伝統構法を守りつつ、将来の地震や暴風雨に耐えうる強度を取り戻すための、まさに待ったなしの決断でした。