「天災は忘れた頃にやって来る」――物理学者であり随筆家でもあった寺田寅彦が遺したとされるこの警句は、日本の防災思想の原点として今なお色あせない。毎年9月1日の防災の日を迎えるたび、私たちは過去の教訓を反芻するが、時間の経過とともに記憶の輪郭はどうしても曖昧になる。
切迫性が叫ばれる首都直下地震や南海トラフ巨大地震の脅威に直面する今、標語が果たす役割は「風化への抗い」そのものだ。災害の歴史は、油断の歴史でもある。過去の惨禍から紡ぎ出された短いフレーズは、日常に埋没しがちな危機感を瞬時に現在へと引き戻すアンカーボルトとして機能している。